赤穂浪士〈下〉 (新潮文庫)



赤穂浪士〈下〉 (新潮文庫)
赤穂浪士〈下〉 (新潮文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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流れは濁流となり人々を押し流します

物語は、周知の結末に向けて徐々に流れを速め、クライマックスの討ち入りに向けて滔々と流れていきます。

その流れを導いていた内蔵助はほぼ流されることなく屹立し続けますが(あと天真爛漫な堀部安兵衛など)、肉親のしがらみや恋心に心ならずも囚われ、討ち入りから漏れてしまう浪士たち、巨大な流れに自らの心を見失い虚無に生きる架空の人々の姿は、「英雄」となった人たちの雄雄しさとは異なる哀切となって物語に深い陰翳を与えます。

また、吉良側について、褒賞も名誉も無い戦いに命を捨てる上杉側の武士たちの覚悟と哀しさ。
大石も含め、歴史群像の一人一人が、我々に身近な「人間」として語りかけてくるようです。

それにしても、討ち入りの場面、最大漏らさぬ、それでいて読む者を圧倒する描写、そしてラスト、堀田隼人の運命・・・見事の一言です。
赤穂浪士の示した武士道。

赤穂浪士四十七士の行った敵討ちは今でも日本人の心を揺さぶり続けている。「国家の品格」で言われるところの武士道とはまさに赤穂浪士によってもたらされた精神だろう。赤穂浪士の物語がいつの時代になっても繰り返し語られてゆくのは、彼らが目指したものがその「武士道」という哲学にあったからだと感じている。赤穂浪士は、徳川綱吉の時代、元禄時代に起きた事件である。有名な生類憐みの令が公布され、戦国武士の時代は終わりを告げ、商人が台頭し老中柳沢吉保が新秩序を打ち立ててゆく時代の端境期といえようか。武士は身分の最上位に位置しながらその存在が風化し始めている。戦をしない武士が、剣を持ち町人にお辞儀をされることに自ら疑問を持ち始めた時に、「武士」とはどういう存在かを示した事件であったといえるのではないか。敵討ちは一般人の間では褒められることではないが「武士」階級ではそうしなければならない時があり、その時は自らの命を絶ってでも守らなければならない誇りがあることを世の中に伝えた事件でなかったのか。日本人とはどうあらねばならないか、そういったアイデンティティーを見失ってきた頃、赤穂浪士は行く道を示すのであろう。赤穂浪士下巻は、死ぬために討ち入りを果たそうとする武士の姿が描かれている。四十七士は最初は百人余りの同士がいたが、徐々に数が減り最後に残った人数である。そこには決して全員が全員英雄であったわけではなく、焦り、挫けてゆく人達もいたことを示している。討ち入り前夜の浪士の家族の姿には胸が締め付けられるような思いがした。英雄を支えている家族の苦悩はあの頃も今も変わらないのかもしれない。読書の好きな方でお読みになってない方には是非ともお勧めである。



新潮社
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